不動産賃貸業を営む人において、その貸付が「事業的規模」に該当するか否かで所得税法上の取り扱いが有利又は不利となるケースがあると思われます。
事業所得の場合と違い不動産賃貸業(不動産所得の場合)は事業というほどの規模でないケースも多数存在(例えば法人の代表者が法人に小規模な事業所を妥当な値段で貸している収入だけの場合等)します。例えば、金額が僅少等「事業的規模」に該当しない場合まで、青色事業専従者給与(又は事業専従者控除)の損金を認める等の特典を認めることは、著しく優遇されるという考えに基づくものと思われます。以下が不動産所得における「事業的規模」の優遇内容の例といえます。
(1) 賃貸用固定資産の取壊し、除却などの資産損失については、事業的規模の場合は、その全額を必要経費に算入しますが、それ以外の場合は、その年分の資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されます。
(2) 賃貸料等の回収不能による貸倒損失については、事業的規模の場合は、回収不能となった年分の必要経費に算入しますが、それ以外の場合は、収入に計上した年分までさかのぼって、その回収不能に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直します。
(3) 青色申告の事業専従者給与又は白色申告の事業専従者控除については、事業的規模の場合は適用がありますが、それ以外の場合には適用がありません。
(4) 青色申告特別控除については、事業的規模の場合は一定の要件の下最高65万円が控除できますが、それ以外の場合には最高10万円の控除となります。
では、これだけ税法上の優遇措置に差が生じる「事業的規模」とはどのようなものでしょうか?
所得税基本通達26-9に以下のように定義されています。
建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。
これが一般的に「5棟10室基準」と言われているものです。
つまり、客観的にこの数字の基準をみたしていれば、ほぼ「事業と称するに至る程度の規模」といえるのではないでしょうか。ただ、あくまで「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」ですので、上記数的基準を満たしていなくても、「賃貸料の収入状況、貸付資産の管理の状況等」により認められるケースもあると考えられます。
なお、駐車場については5件を貸室1室に換算しますので、5×10=50件以上の台数が「事業的規模」の基準と考えられます。